ACT8 「一流になるには一流を真似ろ」
面白い専務と理解力のあるE工事長のおかげで2年ぶりにマンガのペンを持ち出した私でしたが、初めて「本に載る」漫画を描くことになったということで、大学のサークルで描いていた漫画とは、あきらかに意識が違ってきました。
わずか1ページ漫画でありましたが、その1ページの中で、読み手の立場になって笑わせなければならないという責任を感じました。サークルでの漫画は、いわゆる自己満足の世界なのです。
客観的な視点に立って面白い
これに慣れるまでは、かなり創作に苦しんだ覚えがあります。たった1ページの漫画が1ヶ月考えてもまとまらない。締め切り間近になってもまとまらない。そんな悶え苦しんだ中で、原稿ができるのはいつも締め切り前日なのでした。
意図的ではなかったのですが、何故かそうなってしまうのです。
こんなこともありました。
第2作目だったかと思います・・。
締め切り日だったので、夕方までに仕上げて提出する予定の まとまりかけの原稿を、朝一で、E工事長に見せました。
自分の心の中にも、どこか妥協した点はあったのですが・・、
遠藤工事長に 「面白くない。描き直しなさい」 と言われたのです。
私:「えぇ!今日の夕方締め切りなので無理ですよォ・・」
E工事長:「白鳥君。今日は、現場に出なくていい。現場は俺が全部やるから、ここ(現場事務所)で今日中に仕上げなさい」・・。
こんな上司って世の中にいるだろうか?
私はその日、本当に現場に出ないで昼飯も食わず、ものすごい集中力でストーリーを考え、漫画を仕上げました。
E工事長の評価は・・
おもしろい・・。
「合格」・・でした。
そこは漫画家のオフィスではありません。RC造の小学校の工事現場なのです・・。
この漫画づくりは、数ヶ月続きました。私が、E工事長から「もう俺に見せなくても大丈夫だな・・」と言われたのは、6作目くらいだっただろうかと思います。(ホームページには、この初期のシリーズは掲載していません)
この漫画を描くということを続けていて、現在の設計に役立っていることがあります。
○ ひとつは、お客様の視点に立って、面白いプランかどうか・・という見方ができるようになったこと。
感動させれるプランか?もしくはストーリー性は持っているか?自己満足ではないか?など・・。
○ 二つ目は、締め切りが長くても駄目だということです。漫画もプランも2週間の時間をもらっても駄目なこともあります。もちろん、初期的なイメージ創作を考えれば時間は必要です。ただ・・「明後日までに仕上げないとアウト」・・という状況で、集中して創り出されるのが、実は一番面白かったりするのです。
大切なのは、『ものすごい集中力』なのです。
○ 三つ目は、「期待以上のものになっているか?」という見方です。漫画を描いてて感じたのは、相手が期待しているレベルを超えると、笑いや評価が格段に違うということです。
それに伴って、またハードルの高い「期待」と「依頼」がやってくるのです。逆に、期待した以下の出来上がりだと、手抜きを見透かされたり、話が冷ややかになったりします。下手すると仕事自体が消えますので、家づくりも同じだな・・と感じます。予算を把握しつつ、その中で相手が期待している以上の内容を提案できているかが、仕事に結びつくかどうかに大きく影響しているような気がします。
○ そして、漫画づくりを通して得たもので、住宅設計をする際に、私に何よりも大きな力を与えてくれているのは、E工事長の言葉でした。
漫画のアイデアに行き詰ったとき、E工事長は私にこう話してくれました。
E工事長 「白鳥君の描いている漫画のタッチは、誰かの真似か?」
私 「まぁ・・そうですねぇ・・。」と私はバツの悪そうな声で言いました。
E工事長 「それを、恥ずかしいと思うか?」
私「ん~・・・」
E工事長 「白鳥君・・
『一流になるには一流を真似ろ』
という言葉がある。
真似することが一流への近道なんだぞ!
真似することを恥ずかしいと思ったらだめだ!
どんどん真似しなさい!そのうち自分なりのオリジナルも生まれるから!」
私は、この言葉に目からうろこが落ちる思いをしました。それまでは、やはり真似することを避けたいという意識が働き、それが、創作の幅を狭めていました。しかし、この言葉を聞いてからは、真似ることを恥と思わず、むしろ、自分の肥やしにする・・という意識が働いています。
住宅の設計をしていくときも同じ意識です。雑誌や、実物を見て、いいと思う設計要素は、遠慮なくどんどん真似してみます。不思議なもので、真似してみると意外とすんなり自分の設計力のUPにつながりますし、そこから+αの独自性のアイデアも浮かんでくるのです。漫画も住宅設計もその点は同じで、真似をどんどんしていくと、必ず、そこから真似た要素+αのものが生まれてくるのです。多分、E工事長が言っていた「一流になるには一流を真似ろ」の真髄はここにあるのだろうと思います。
私の人生の格言の一つです。
『一流になるには一流を真似ろ』
***蛇足的な話になりますが・・***
この小学校の現場をやっているとき、こんなことがありました。
サッカーのアメリカワールドカップ予選で、日本はミラクルな快進撃!。初のワールドカップ出場は、ほぼ手中に収めているという状態でした。私は、サッカーが大好きなので、日本が初めてワールドカップに出るときは、何が何でも見に行きたいと思っていたのです。結局、日本は最後の最後「ドーハの悲劇」で、ワールドカップ初出場を逃したのですが、私の心の中では、悔しさ半分、ホッという感情が半分でした。さすがに、N建設に入社して、たった一年で辞める「流れ」は感じていなかったからです。もし、日本がアメリカワールドカップに出ていたら、かなり悩んで、会社を辞めていたかもしれません・・(^^;)。
この蛇足的な話は、後ほど生きてきます
*【流れに従って生きる】は毎月1日に更新していきます*