ACT24 営業マンMの栄枯盛衰
先述の契約白紙で悪者にさせられた営業マンMは、首寸前の状態でした。
原因がその営業マンMではないのですが、いつも、この施工面積のからくりに気づかない設計部のミスを、営業Mの失敗にカウントされるのでした。
積算・設計部長からは「おいM~,おめぇもあと2~3ヶ月で契約上げないと肩がたたかれるぞ」と脅かされて、Mは、ほとんど死に体の状態でした。
そんなMにラストチャンスが訪れました。
新しい見込みのあるお客様が出てきたのです。
しかし、これと同時に・・Mには「この案件を契約できなければ退社」・・ということも告げられました。
設計部に不信感をいだいていた営業マンMは、私に同行営業を依頼してきました。
私は・・・「ん・・? もしかして、これは、面白いかも」・・と直感で思いました。
営業マンMは 人あたり や 会話の仕方 は 営業向きなので、首寸前のMをすご腕営業マンにできるかなぁ・・という目標ができたのでした。
1人を育てて結果が出れば、おのずと他の人も私の話を聞いてくれるようになるだろう・・という思いもありました。
その日から、私と営業マンMの個人勉強会が始まりました。
営業に行ったとき、何と何を説明して、どういう手順でCホームの家づくりを理解してもらうか・・。
営業ツールをどういうのを用意してどのように使うか・・。
契約までの流れをイメージできるように説明しました。
そして、お客様のご自宅に訪問したという想定での模擬会話の練習も何度も繰り返しました。
営業マンMは、徐々にやれそうな気持ちになって、顔つきが変わってきました。
それは見てはっきりわかるほどでした。
そんなときはうまくいくものです。
数回の同行営業と打ち合わせで、営業マンMは、初めて適正価格でお客様と契約をしたのです。
設計・積算部からも「無理のない金額」と言われ、当然喧嘩も起こりませんでした。
こういう現場は問題も起こりづらく、工事完成まで全てが丸くいきました。
契約の夜は、営業マンMと飲みに行きました。
そして、営業の方法の深い部分や、その真髄の話をしました。
一番は、適正価格で契約することが会社のためでもあるが、実は、お客様の家づくりのためにもなることを話しました。
過度に値引きした物件は、現場レベルでいろいろ抜かれてしまい、結局、お客様が損してしまう。
下請け業者も叩かれて発注されるので、その現場へ良いものを作ろうという業者さんの気持ちが抜かれてしまうことになる。
最後にはお金が無いので、現場担当が自分で作業し始めて混乱を極める。
だから、営業マンの契約する金額が、適正金額かそうでないかで、実は、その現場が荒れるかどうかが決まってしまう。
適正価格でなければ、絶対に現場は荒れる。
営業マンがスタート時点でその責任を意識してもらえば、その現場は丸く行くことが多い。
この契約から、営業マンMの目の色は変わりました。
「営業の方法が分かった」と顔が自信に満ち溢れていました。
そして、おのずと結果がついてきたのです。
首の勧告を受けた営業マンMは、1年後には、Cホームのトップセールスマンになっていました。
過度な値引き癖が多少残っていたのが、玉にキズでしたが・・。
人間とは、面白いものです。
結果がついてこないときには、隅の方で肩を丸くして、肩をたたかれないかとビクビクしていたのに、トップセールスマンになった瞬間に、その肩で風を切って歩いていました。
馬鹿にされていた設計に対しては「ちゃんとかっこいい設計してくださいよ!」なんて茶化すほどでした。
しかし、これまた人間とは面白いもので、調子に乗りすぎて肩で風を切って歩いていると・・つまづいて こけたりするものです。
営業マンMは、絶好調に浮ついて、とんでもない事をしでかしてしまい、どん底まで転げ落ち、2年後に会社を首になってしまいました。
この営業マンMを見て・・
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」ということを心しよう・・と思いました。
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