第30話:T大工さんからの電話
T大工さん 「白鳥さん。悪ィ。建て方1週間ずらしてくれ!」
大工さんから来た電話の開口一番のこの言葉に私はびっくりしました。
私 「え!?・・どうしたんですか?」
T大工さん 「おふくろが死んだ」
私「え...」
T大工さん 「実は、もってあと10日~2週間かな・・という状況だったんだ。
建て方終わったら、屋根板までかけて雨が入らないように囲った状態で何日か休みをもやおうと思っていたし、
下手をすると建て方中に建て方をストップするかもしれないと心配はしていたんだ。」
私 「そうだったんですか...。」
T大工さん 「今、病院から電話があって、急に亡くなったと連絡が入ったんだ。
実は、今日の昼間も会ってきたんだよね。」
私 「そうだったんですか。まずは分かりました。1週間ずらす手配を掛けます。
お通夜や告別式の日程と場所をあとで教えてくださいね。」
T大工さん「悪いね」
私「いえいえ。あとでゆっくりお話ししますが、救われた感じがします。
それではまずバタバタしているでしょうから...。」
電話を切った私は不思議な感覚になっていました。
まずはパネル工場のSさんに電話して事情を説明しながら、1週間延びることになったので、「厚壁パネルに再挑戦」の方向で決まりました。
そして、フェイスブックやメールやFAXで「建て方を1週間スライドする」ことを連絡しました。
事情は、もちろん大工さんの身内にご不幸があったということです。
お通夜の会食の時、T大工さんとゆっくり話をしました。
T大工さんのお母さんは年齢的に大往生であったこともそのとき知りました。
その中で私からは、1週間建て方がずれたことで救われたことを、今までの経緯も含めて裏事情を話しました。
T大工さんからは、建て方中に亡くなったらまずいなぁ・・と冷や冷やしていたことなど、どのタイミングで亡くなったらこうしよう・・と想定していたことの話をされました。
うまく表現できませんが、
T大工さんのお母さんは、最後の最後までT大工さんや私を助けてくれる
このタイミングで天寿をまっとうなさったのかな・・
という不思議な感覚を2人で話していました。
私も人生の最後は、最後の瞬間まで誰かのためになる形がいいなぁと思うのでした。
T大工さんのお母さん...長い人生お疲れさまでした。
そして、ありがとうございました。
つづく
【木の香の家 展示場 兼 実験住宅 物語は 5日 15日 25日 に何とか更新していきます。】