<比較のねらい>
住宅展示場に行くと、よく「うちの断熱材は○○の何倍の性能です!」とか、「南極観測所などで使われている!」とか、消費者の方に過剰な印象を植え付ける営業トークが多く聞かれます。まるで、その断熱材を使えば、ものすごい住宅ができるとイメージさせられますが、実際、断熱材の性能はどれくらい違うのでしょう?現実を知るために、比較表を作成してみました。
同じ厚み比較での性能順位(下の方が高性能) | 同じ断熱効果に必要な厚み比較 |
普通繊維グラスウール10kg/m³品 | 約130mm厚 |
普通繊維グラスウール16kg/m³品 | 約117mm厚 |
ビーズ法ポリスチレンフォーム4号 | 約110mm厚 |
ビーズ法ポリスチレンフォーム3号 | 100mm厚 |
押打法ポリスチレンフォーム1種(スタイロフォーム) | |
普通繊維グラスウール24kg/m³品 | |
高性能グラスウール16kg/m³品 | |
マットフェルト状 ロックウール | |
ビーズ法ポリスチレンフォーム2号 | 約97mm厚 |
ビーズ法ポリスチレンフォーム1号 | 約94mm厚 |
普通繊維グラスウール32kg/m³品 | |
高性能グラスウール24kg/m³品 | |
ボード状 ロックウール | |
ビーズ法ポリスチレンフォーム特号 | 約87mm厚 |
押打法ポリスチレンフォーム2種(スタイロフォーム) | |
押打法ポリスチレンフォーム3種(スタイロフォーム) | 約70mm厚 |
ウレタン類(現場発泡・ボード状) | 約63mm厚 |
上記の表を見てみると、イメージとは異なる意外な一面が見えてきます。
①グラスウールより性能の悪い発泡系断熱材があること。(断熱材の見た目は同じです。)
②南極観測所で使われている断熱材(スタイロフォーム3種)の50mm厚は、高性能グラスウール16kg/品の100mm厚より性能が下回ること。
<考察>
断熱性能は、その断熱材の密度や厚みによって大きく左右されます。特に厚みに左右されますので「性能が良い断熱材!」と言っても、薄く使えば何の意味もありません。上の表で一番性能の悪い断熱材(普通繊維グラスウール10kg/m³)と一番性能の高い断熱材(ウレタン)では、なんと・・下の通りです。
普通グラスウール10kg/m³品 100mm厚の性能 = ウレタン50mm厚の性能 |
<補足>
①断熱性能は、施工方法でも違います。「外張り断熱」と「充填断熱」の差は、目安として下の通りです。
充填断熱:高性能グラスウール16kg/m³品100mm厚 ≒ 外断熱:ウレタン50mm厚 |
②普通繊維のグラスウール10kg/m³品やロックウールは、反発力が少ないので、つぶしてしまうとそのまま厚みが薄くなってしまい性能が落ちます。施工の丁寧さに影響されやすいですので、グラスウールを使う場合は、高性能(細繊維)グラスウールを使用した方が安全です。
つぶれた断熱材につきまして補足です。
よく・・こういう営業トークを耳にします。
「当社のロックウールは48kg品です。ですから、一般の住宅会社が使っている16kg品の断熱材の3倍の性能があるのです!」・・。
一見、正論のように聞こえます。
・・が、それは大きな間違いです。
下の写真が、ロックウールです。梱包の袋には厚み90mmと記載されております。
しかし、反発力(復元力)がないため、開梱すると既に60mmの厚みに潰れております。
(某ローコストハウスメーカーさんの現場)
つぶれても、使っている断熱材が同じなのだから、つぶれた分・・密度が上がるので断熱効果は同じでしょ!・・と考える方もいらっしゃると思います。
たとえば、食パンを食べるとき、ふっくらした状態で食べるパンも、つぶして煎餅のようにして食べるパンも取得できるエネルギー量は同じなので、それと重ねて考えてしまいます。
しかし、断熱材の性能については、その考え方は間違っているのです。
具体的に数値にしてみましょう。
計算しやすいように「32kg/m³品」と「48kg/m³品」で算出してみます。
熱抵抗値は、数値の大きいほうが断熱性能が良いとご理解ください。
32kg品の断熱材90mmの熱抵抗値は2.5m²K/Wという数値になります。
32kg品の90mm厚をつぶして・・60mm厚にしますと、密度はちょうど48kg品と同じになります。
ちょうど、上の写真のような状態でつぶれたままとご想像ください。
48kg品60mm厚の熱抵抗値は1.76m²K/Wという数値になります。
2.5m²K/W が 1.76m²K/W になりますので 明らかに断熱性能が低下してます。
どれくらい低下したのか・・といいますと、32kg品で1.76m²K/Wになる厚みを探れば理解できます。
32kg品で1.76m²K/Wになる厚みは・・・なんと、63mmです!
つまり、断熱材の厚みが潰れてしまったことで、30%も断熱効果が低下しているという計算になるのです。
そういう理由で、反発力のない断熱材は使わないことをお勧めいたします。
③発泡系断熱材は、硬いので、充填断熱には不向きです。充填施工しながら、さらに厚みが薄いと熱橋の影響も大きくなり、性能がかなり落ちますので、基本的には外張り断熱に適しています。
下の写真は、柱の間に固い断熱材を施工して数か月過ぎた現場の写真です。(某ローコストハウスメーカーさんで建てられたお客様の家)硬い木材の間に、硬い断熱材を施工するため、隙間が生じます。全部をテーピングすればいいでしょうが・・量が量だけに隙間はそのままでした。そのうち木が痩せて、右側の写真のように断熱材が倒れている部分もあります。そうしますと、石膏ボードの裏面から熱がどんどん小屋裏へ抜けますので、傾いた断熱材の断熱効果は0です。