<はじめに>
住宅業界ではよく見かける【外壁面を使ったパッシブソーラーと説明している工法】(以下「外壁パッシブソーラー」とします)の効果のほどを比較する為、一つの簡単な測定をしました。平成16年12月〜平成17年2月に行った実験台の測定結果と合わせて、【外壁パッシブソーラー】の効果を考察してみます。
考察をする前に、まず、太陽の「光」が「熱」に変わるという事について、ちょっとおさらいしてみましょう。
下の写真は、私が 1999年にスイスに研修に行ったときに見てきた自然エネルギー利用を研究している研究者の実験住宅です。
これだけ見ると、いかにもメカニックに見えて、とても住む気にはなれない・・・と感じてしまいます(^^;)。それは置いておき、壁でどうやって太陽の熱を利用するのか・・・という理屈を見てみましょう。
はじめに、太陽光と熱の考え方で基本をおさえましょう。
太陽の光は、物にあたったときに初めて熱に変わる
下の「図-A」は、小学校の理科で習うことですが、下記のような感じの表現だったと思います。
1 太陽の光は、まず地面に当たって熱に変わる。(地面を暖める)
↓
2 そして、その地面の熱が空気を暖める。
↓
そのため・・ 「太陽高度が一番高い時間」と「最高気温が記録される時間」には、2時間程度の差が出来る
スイスで見た実験棟の場合、この基本を生かすように工夫されています。
実験棟の太陽熱利用の方法を概略で描きますと、「図-B」のようになります。
1:まず、外壁材[ア]になるべく「日射の透過率の良いもの」を使う
2:かつ外壁材[ア]は「断熱性能の良いもの」にする。
3:熱に変わる部分[イ]には日射を反射しにくいものを使う
目的は、太陽の光を外壁の表面で熱に変えるのではなく、外壁の内側の層(通気層)で熱に変えるためです。外壁表面で熱に変えてしまうと、風に奪われたり、外気温に奪われたりと、太陽熱利用のロスが大きすぎるためです。「図-C」で見ますと、外壁材[ア]の日射透過率が良いほど、太陽光は★の位置で熱に変わります。
せっかく太陽光が熱に変わったのですから、その熱を外部に逃がさない為です。当然といえば当然です。
「図-C」で見ますと、外壁材[ア]が、断熱性能にも優れた建材であるということです。
スイスの実験棟では、この[ア]の部分に透明な素材で、ハニカム状(蜂の巣状)の構造で出来た材料を使っていました。ハニカム状の中に動かない空気層をつくることで、[ア]の断熱性能を高めているという仕組みでした。
透明でハニカム状(蜂の巣状)の素材の写真日射の透過性を高くして、かつ、断熱性能も確保している
これは、太陽光を★のポイントでなるべく熱に変えるためです。日射の反射が大きい素材(アルミなど)にすると、日射は熱に変わらず★で反射されて外部に逃げてしまいます。
このスイスの実験棟では、[イ]の部分にコンクリートを配置していました。コンクリートは蓄熱体としての機能が大きい為、日射が熱に変わった時点で、コンクリートに蓄熱して、そのまま熱を室内に利用するということが目的のようです。(この実験棟では、夏対策としては通気層が広がる構造になっていて、通気層の上部を外に開放し、排熱を促すという仕組みだったと記憶しています。)
効果の大きさのデーターはいただけませんでしたが、理にかなっています。
これに近い集熱理論で、日本で有名なのはOMソーラーだと思います。
OMソーラーも図のように、ポリカーボネートの下に屋根の通気層・そして鋼板系の材料を設置したソーラーパネルです。日射がポリカーボネートを通過して、鋼板部分にあたり★部分で熱に変わる。それを室内にファンで送風する。という方法です。
OMソーラーの現在の仕様はわかりませんが、ポリカーボネート1枚ということで、断熱性能として弱い為、通気層の熱が外部に逃げてしまう熱ロスも大きいと言われております。このポリカーボネート部分を、日射透過率がよく、かつ断熱性能の良いものとすれば、集熱効果は高いものとなります。また、コーキングが熱で短期間にダメになるため、そのコーキングの切れ目から、熱漏れが生じることも問題の1つとなっているようです。
そのほか、寒冷地の冬の日射量も関係してきますので、その点は後ほどの測定データーで見てみましょう。
前述した太陽光利用に対し、【外壁パッシブソーラー系】の太陽光利用では、かなり違う方法で考えられています。ポイントは、前述のパッシブソーラー理論は、太陽光を「通気層で熱に変える」のに対し、【外壁パッシブソーラー工法】などは「外壁の表面で熱に変える」という点です。パンフレットのさわやかイメージイラストでは、把握しづらいですが、大きな詳細図にしてみると下図のようになり、スイスで見たパッシブソーラー理論とは大きく違います。 外壁材[ウ]は、主に窯業系のサイディングで[エ]は断熱材になります。
このパッシブソーラーという効果がどれくらいなのか、ある程度把握する為に、1つの実験データーと、1つの実測データーを見てみましょう。
まず上の写真は、外壁裏面の通気層の温度がどれくらい上昇するものなのか・・・という事を調べるために製作したものです。
測定期間:平成16年12月末頃〜平成17年2月下旬
測定場所:岩手県北上市
測定位置の状況:南面に障害物がないので、日射のあたり具合は良好です。
この年の正月は、暖房もいらないくらいの小春日和だったので、どういうデーターが出来るか楽しみでしたが、日射のあたる外壁表面の温度は、最高で47.3℃を差しました(測定点A)。そのとき、庇下の外壁温度は23.5℃を示しています(測定点 B)。
次に実験台の通気層内部の温度を測定したグラフを下に載せます。「グラフ3」
通気層内部の温度は、小春日和の1月3日に最高46.9℃を記録しています(測定点C)。 「グラフ4」の結果は、私もちょっとビックリしました(^^;)。「すげぇ・・・通気層内部で40℃越えるときもあるんだなぁ」と。
次に「外壁表面の温度」と「外壁裏面の温度」の変化を重ねたグラフを見てみましょう。「グラフ5」
「グラフ5」から分かる事は、外壁の外面と通気層の温度の変化にタイムラグがほとんどありませんので、窯業系サイディングの断熱性能はほとんど期待できないということです。
さて、ここからが色々な考察です。
こういうデーターは、一部をかいつまんで使うと、いろいろなオーバートークもでき、消費者の方に過剰な印象を植え付ける事ができますので、きちんとした冷静な解釈が必要となります。
例えば、「真冬でも通気層の温度は45℃を超えるんですよ!」と説明し、一部の測定データーだけを見せると、あたかも冬の間ず〜っと40℃もあるように思わせることができるのです。
さて、落ち着いて、データーを読み込んでみましょう。
まず、この実験台は、写真のように、通気層の上下が密閉されています。
そのため、通気層内部の温度は濃縮されていく環境ですので、「グラフ3・4」の通気層内部の温度測定グラフは、実際の住宅に当てはめることは不適切なデーターです。
外壁パッシブソーラー工法では、外壁裏面で暖められた空気は、すぐに小屋裏へ移動したり、通気層上部から室内に移動する・・・とされているためです。
そのため、本来は通気層で暖められて移動している温度の測定が必要になります。
【考察1】
外壁の断熱性能がほとんど期待できない(グラフ5の考察)ことから、外壁パッシブソーラー系のうち、直接室内に熱を取り入れる工法で、太陽熱を利用できる部分は、少なくとも外壁の温度が20℃を超える時間帯になります。室温が20℃と仮定すると、室内の空気を通気層に出して20℃以下にして取り込むのは、太陽熱を取り込むことにはならない為です。
そういう視点から、まず「グラフ1」に 20℃の線を引いてみましょう。
そうして見てみると、冬の間で、20℃を越える部分は、かなり少ない事がわかります。正月前後が、小春日和だったこともあり、この測定期間で外壁表面温度が20℃を超えた(ただし直射日光が当たっている部分)時間の累計は50〜60時間ありました。
しかし、2月以降は、本格的な冬になった為、外壁温度が 20℃を超える日はありませんでした。
...とすると、冬の日射量が極端に少ない日本海側の地域(太陽は1ヶ月に2〜3日しか見られないらしいです)で、外壁表面で太陽光を熱に変えるパッシブソーラーは、本当に効果があるのか疑問が出てきます。
【考察2】
次に、グラフとは別に視点を変えてみましょう。
これらの測定グラフは通気層の温度を測っています。
建物内部の温度ではありません・・ということを考慮しないとなりません。
それは、通気層の気積と、建物内部の気積を比較してみる必要があるためです。
これを比較表現しないフランチャイズ工法はいろいろとありますが、ちょっと、比較してみましょう。
約40坪の住宅で考えてみます。下の図をご覧下さい。
通気層
東西方向に10m×2階屋根までの高さを5.5mと仮定します。一般的に通気層の厚みは18mmですので、周辺環境に邪魔されずに大きく日射を受ける南面の通気層の気積は、幅10m×高さ5.5m×通気層の厚み0.018mで計算できます。答えは約1m³となります。
これに対し、建物内部の気積は、10m×7m×5.5mとすると約380m³。屋根断熱にして、小屋裏部分をロフトのように使う場合は、約500m³の気積になります。
つまり、
南面通気層の気積:建物内部の気積=1:400〜500
ということになるのです。仮に、かなり甘めに想定して、1m³(1m×1m×1m)の空気を50時間ず〜っと45℃に保つ太陽熱利用の量を、380〜500m³の住宅内部の取り込むと、どれだけの効果になるのか・・・という考え方が大切になります。単純には1m³ に起こる現象を400〜500倍に薄めて考えないとなりません。