「高断熱は良いが、高気密は悪だ!」
「高断熱高気密より自然の家がいい!」
「高気密は人工的で中気密は自然的だ!」
この類の表現による質問や指摘はよく聞かれます。それは、一般のユーザーさんはもちろん、プロの建築屋さんからもあります。この質問があったとき、「高断熱高気密ってどんな住宅だと思いますか?」と聞き返すと、的を得た答えは100%といっていいほど返ってきません。
多くの場合、「言葉のイメージから受ける誤認識」や、「断熱を十分効かせる施工ができない住宅会社さんの展示場で、意図的にすり込まれた誤認識」がほとんどです。
そのほかに、「知人が高断熱高気密住宅と言われて建てたが、不快だった」・・ということでの体験上での判断もあります。
でも、この「高断熱高気密」云々の討論をする前に、そもそも「高断熱高気密」とは、具体的にどういうものを指すのでしょうか?その原点から抑えませんと、この命題にはイメージ論の抽象的な答えしか出ません。私は、研究者でも先駆者でもありませんので、大きなことは言えませんが、断熱の効く家を造っている小さな一住宅会社からの観点で、少しお話して皆さんのお役に立てればと思います。
○「高断熱高気密住宅」とは、どういうレベルの建物をさすのでしょうか?
答えを言いますと、実は法的な定義はありません。高断熱高気密とは「これこれこういう断熱性能」で「こういう気密性能」です・・という決まりがないのです。そのため、どのレベルが高気密で、どのレベルが中気密なのか、答えられる住宅会社さんはありません。そのことを断言できる住宅会社さんは逆にいうと不勉強か、営業戦略上、意図的にウソの情報を使っているに過ぎません。「おおよそこのレベルかなぁ」・・くらいの答えはできるかもしれませんが・・。
そもそも、高気密の数値的定義がない以上、中気密という言葉すらありえないのです。
断熱性能も同じです。「このレベルが高断熱」という定義はありません。そのため中断熱という言葉すら意図的につくらなければ存在しません。
○「高断熱高気密」という言葉はいつ生まれたのか?そして...。
この言葉は、私の認識が正しければ、30年ほど前に室蘭工業大学の鎌田先生が最初につけたものです。当時の在来軸組み工法は、「断熱材を入れてもそんなにあたたかくない」・「むしろ壁の中で結露を起こして腐る」という問題をかかえていました。その原因をいろいろ探って研究し、ちょっと工夫をするだけで「本当に断熱材が効く」...という構造を見つけたのが鎌田先生でした。それが同時に建物の内部結露も防ぐ事がわかり、住宅の寿命を飛躍的に延ばすことができるようになってきました。こういう「断熱材が効く」「内部結露を防いで家の寿命を延ばす」構造が、当時、「高断熱高気密」と命名されたのです。
その後、鎌田先生も、このネーミングは失敗した・・と言ってましたが・・。
それは、イメージ論だけで、バッシングする文学者的な評論家の方や住宅会社が出てくるようになってきたためです。
さらに、「高断熱高気密」という言葉に、法的な決まりがない以上、普通の寒い住宅を建てて「当社も高断熱高気密住宅」とチラシを打っても違法にはならないのです。正しい技術の取得より、とりあえず販売棟数を目指そう・・と考えているハウスメーカーさんは、すぐにこんなことをします。技術の取得とはそんなに簡単ではないのです。結果、「ほら高気密住宅はダメだ」と言われるようなニセ高断熱高気密住宅も同時に出てきてしまっているのも事実です。